特集
この「人」に、会いに行こう! in 上勝 vol.6 田村浩樹さん
日本で自治体として初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を2003年に行った徳島県・上勝町。
生ゴミなどは各家庭でコンポストを利用。その他のゴミは住民自ら町内のゼロ・ウェイストセンターに持ち込んで45分別することで、リサイクル率は80%を超えており、住民主導のサステナブルな取り組みが国内外から注目されています。
でも、上勝町は決してゼロ・ウェイスト「だけ」の町ではありません。町の自然や文化を存分に感じ、楽しむことができる場所や体験、ツアーなどが多く存在しています。そこで鍵になるのは上勝の「人」。上勝の活力となり、地域を動かす人たちを紹介します。
文・板東悠希(ガイド/全国通訳案内士)
Vol.6で紹介するのは、『上勝町ゼロ・ウェイストセンター』と『HOTEL WHY』を運営する株式会社BIG EYE COMPANYの田村浩樹さん。ホテルの宿泊客の対応に奔走するなか、今年から新しい体験ツアーをスタートする予定とのこと。田村さんのお仕事と新たな取り組みについて、詳しく話を聞かせてもらった。
「入社する前にやろうと思っていた仕事と、今取り組んでいる仕事は全然違うのですが、一言で言うとここは『飽きない職場』です」
笑顔で話す田村浩樹さんは『上勝町ゼロ・ウェイストセンター』および『HOTEL WHY』を運営する株式会社BIG EYE COMPANYのスタッフ。2020年5月30日にごみステーションや交流ホール、宿泊棟を備えた複合施設『上勝町ゼロ・ウェイストセンター』が誕生したが、そのオープン前から勤務をスタートして現在に至る。
「実は、勤務表づくりが入社して一番はじめにやった仕事でした(笑)。当初はまだこの建物も完成していなかったですね」
田村さんは生まれも育ちも上勝町。高等専門学校に進学し情報工学を学び、卒業後は愛知県にあるの車やバイクに装備される器械を製造するメーカーに勤めた。メーカーで10年少々勤務したとき「自分ができることはやりきった」と感じ、実家の家業を手伝うことを決意。2019年に地元・上勝に帰郷した。家族が営む建設業と、幻の柑橘ともいわれる『ゆこう』の栽培を手伝っているとき、『上勝町ゼロ・ウェイストセンター』の運営スタッフが募集されていることを知る。
「募集を見て入社を決意した、というわけでは全然なく、気になったのでちょっと聞いてみよう、というつもりで問い合わせフォームから質問を送ってみたんです。そして…気づいたら、働くことになっていましたね(笑)。その当時は、ゼロ・ウェイストセンターに持ち込まれた、壊れて使えなくなったものなどを修理・販売する計画がありました。これが面白そうだな…と。前職での自分の経験や知識がきっと活かせるはず、と感じたんです」
そんな田村さんの技を垣間見ることができるのが、HOTEL WHYのフロントカウンターにある、こちらの古いラジカセ(←もはや死語かも…)。昭和の香りを濃厚に漂わせるこちらから、少しくぐもった優しいタッチのサウンドが聞こえてくる。これは、上勝町民がゼロ・ウェイストセンターに持ち込んだ壊れたラジカセで、田村さんが修理して使えるようにしたのだとか。今も現役で音楽を聞かせてくれる。
しかし、ゼロ・ウェイストセンターでの業務は持ち込まれたモノを修理する仕事がメイン…というわけにはいかない。勤務表だけでなく、手続きのための書類なども作成し、ホテル宿泊のweb予約フォームを整えた。そして、ゼロ・ウェイストセンターとHOTEL WHYの問い合わせや接客対応がメインの仕事となり、多忙を極める毎日だ。
そんななか、田村さんが発案し、現在進めている企画がある。ゼロ・ウェイストセンターを拠点とする、E-bike(スポーツタイプの電動アシスト自転車)のレンタサイクルを使ったガイドツアーだ。
「上勝町の予算で、ここゼロ・ウェイストセンターにE-bikeのレンタサイクルを導入することになりました。でも、上勝町外から来てくださった方に、単純に自転車をレンタルするのは少し危険でもあり不親切かな…と。というのも、上勝はアップダウンが多く、特に下り坂ではスピードがかなり出ることもありますからね。ですので、レンタサイクルはガイド付で乗れるように、しっかりプランを作ろうということにしました。それもこれも、僕自身がロードバイク好きで長年乗っているということもあります」
このツアーは現在準備中だが、田村さんは「住民の人たちが参加できるものにしたい」と考えている。
「レンタサイクルツアーのガイドは上勝町民の方に務めてほしいと考えています。自分の住む、よく知っている地元を、そこに住む人が案内するというのは、参加者の方も安心できると思います。上勝町が取り入れている『ボランティアタクシー*1』のイメージですね。いろんな人が関わってもらえるように、そして、関わってくれた人たちがちゃんと報酬ももらえる仕組みにしたいと思っています」
そのために、まずはツアーガイドになってもらえる人にはE-bikeに試乗してもらい、町民向けの講習会なども開くなどして、しっかりと準備を進めたいと考えている。田村さん自身を含め、普段からサイクリングをすることに慣れ親しんでいる複数の人たちがツアーガイドを務めてくれる想定だ。
E-bikeは2種類。誰でも簡単に乗りこなせるコンパクトなものと、サイクリング好きで日ごろから自転車に乗りなれている人には嬉しいクロスバイクから選べる。
「ゼロ・ウェイストセンターに来ることを目的として上勝町に来てくれる人がたくさんいらっしゃいます。でも、日帰りで帰ってしまう方が多いな…と感じるのが現状。ゼロ・ウェイストだけじゃない上勝を知ってほしいですし、もっともっと上勝に滞在してほしいですね。せめて1泊、できれば2泊ぐらいしてもらって、上勝を満喫してほしいです」
上勝で生まれ育った田村さんのほか、地元で暮らす人たちが案内するからこそ、紹介できる上勝のスポットも多々あるはず。このガイドツアーが上勝の内と外をより深くつなぐ役割を果たしてくれそう。自転車で移動するので、ゆっくり流れていく美しい風景を堪能できること間違いなし。知られざる上勝の魅力をたくさん発見したい。ツアーのスタートが今から楽しみだ。
上勝町ゼロ・ウェイストセンター
徳島県勝浦郡上勝町大字福原字下日浦7-2
電話:070-2616-9012
見学可能時間:9:00 ~ 17:00
(休館日:第1火曜日・12/31~1/2)
https://why-kamikatsu.jp/
*1 ボランティアタクシー:正式名称は「自家用有償旅客運送」。一般の町民がボランティアで自分の車を利用したタクシー。高齢者をはじめ、みんなが便利に快適に暮らせるように。という想いから誕生した。
https://hida-mari.com/volunteer-taxi/
ボランティアタクシーを使ったツアーについて、
「この『人』に、会いに行こう! 上勝 vol.1 藤井園苗さん 」もチェック!
https://www.east-tokushima.jp/feature/detail.php?id=250