特集
長く使う、愛するものを。
伝統の技で作る「大久保鍛冶屋」の手打ち刃物
台所に欠かせないアイテムのひとつ、包丁。
切れ味ひとつで料理の味が変わるとも言われる道具を、今でも残る数少ない鍛冶屋のひとつとして作っているのが勝浦町『大久保鍛冶屋』さんです。
それぞれの用途の包丁や鍬、ハサミなどを作るだけでなく、長く使い続けられるように修理も請け負っています。
現在も伝統的な技法を継承する鍛冶屋として使い捨てでない、大切に使い続けたい“道具”を提供している鍛冶屋としての誇り、そして想いをお聞きしました。
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勝浦町を走る県道16号線から旧道に入った道沿いにある普通の民家。
ここが『大久保鍛冶屋』さんです。
ここで三代目となる大久保喜正さんと息子である竜一さんは新規の製品をつくりながら、請け負った道具を手仕事で修理しています。
『大久保鍛冶屋』の創業は大正時代。
農業、林業、漁業が盛んだった当時は“鍛冶屋”が生活に欠かせない職業で、どの地域にもお店があったといいます。
喜正さんの祖父は尋常小学校を出てすぐに弟子入りし、勝浦で開業しました。
昭和30年代になり、喜正さんの父親が仕事を始めたころは山仕事が盛んで鉈や鎌の需要が高く、鍛冶屋がとても繁盛した時期だったといいます。
明治以降、近代的な製鉄技術の導入によって少しずつ鍛冶屋は減り、今では県内に数軒となってしまっています。
喜正さんの代になり、鍛冶屋の仕事と製品の良さを知ってもらいたいと県内のイベントに出展するようになりました。そこで初めて鍛冶屋の存在にふれ、包丁を購入した人がその切れ味の良さに感動し、リピーターになったり口コミでその噂は徐々に広まっていきました。
その仕事ぶりが認められ、喜正さんは厚生労働省が表彰する「現代の名工」に選ばれています。
ここ数年は誰かが書いたブログやSNSなどを発見して足を運ぶ若者が増えているといいます。
「包丁を見に来たり修理を持ち込んだりと目的はさまざまですが、そういった人々は道具についての理解が早くて感心します」と喜正さん。
喜正さんの息子・大久保竜一さんは、高校を卒業してすぐ鍛冶屋の仕事を始めました。
道具を扱う者として、実際に使用した感覚を生かすほか、事細かに使い方や修理のプロセスを説明できるようにしているんだそうです。
『大久保鍛冶屋』さんが作る道具は、菜切り包丁、鉈、鎌、鯵切り包丁、出刃包丁、刺身包丁など、一般の人から専門の職人さんが使うための包丁のほか、みかんの取り籠の枝掛け金具や鍬、植木用のハサミ、栗むきなど実に多種多彩。
包丁は手に取るとやや重みを感じますが、刃を入れるとスッと軽く滑らかな切り心地です。
熟れたみかんでも崩れることなく、シャキッとスライスできます。
かつら剥きだって、ほらこんなに薄くできるんです。
『大久保鍛冶屋』の包丁を愛用するプロの料理人が全国各地にいるのも、頷けます。
長年の技術と経験で作り出される鍛冶屋の刃物製品は、職人の思いが込められた大切な逸品です。
直売所には、さまざまな形の刃物製品が並び、その場で購入することができます。
さらにオーダーメイドも受注しているそうです。
そして『大久保鍛冶屋』の特徴は、修理をしてくれること。
ただ、ここで買った包丁や鍬を直してくれるだけではありません。
ホームセンターで買った既製品など、自分たちで作っていない道具でも修理してくれるんです。
とある日の修理現場にお邪魔しました。
朝8時から工場に入り、引き受けた道具を直していきます。この日は鍬の修理からスタートしました。
「この鍬、刃先が丸くなってしまっているでしょう? 刃先がなまると土が砕けなくなるんです。全体の長さはあるので、先を切り込んでやります」と竜一さん。
竜一さんは土とセメントで固めた炉の中にある火床に鍬を入れて真っ赤になるまで熱し、不要部分をカットします。
熱しては取り出して叩き上げ、水溶性油に突っ込んで急速に冷却。
その工程のあと、歪みを矯正したうえで硬さを固定し、刃の研磨をして修理は完了します。
「これは簡単なほう。刃が短くなりすぎていたら“先掛け”といって、欠けた刃に新しい鉄を打って継ぎ足しをすることがある。それはもっと難しくて時間もかかりますね」。
『大久保鍛冶屋』の製品なら構造が分かるから、直す作業の方向性は明確です。
しかし持ち込まれるのは、いろいろな製品で材質や強度がわからないものも多数。
安価で悪質なものだと先端に鋼が入っていない場合もあるそうです。
だから、修理にはいつも以上に頭を使って取り組み、ものによってはほぼつくり変えるほど労力がかかることもあるんだそうです。
「その道具が最大限力を発揮できるように直すのがうちの役目。捨ててしまう前にまず持ってきてみてほしい。欠けたりちぎれても助けられる道具もたくさんあるけん」。
包丁・農具・山林刃物のほか、石積みの道具の修理も引き受ける大久保喜正さん。野鍛冶の領分を出る製品の場合は受けられないが、それ以外の修理依頼を断ることはまずないそうです。
息を吹き返して実力を100%引き出された道具たちは、どこか誇らしげにみえます。
使うほどに馴染み、使うほどに愛着が沸いてくる道具。
大量生産、使い捨ての時代だからこそ、長く愛するモノの大切さが浮かび上がってきます。
それは「道具は使い手がラクになるもの」という思いを込めて作り、直し続ける職人の矜持をの賜物なのでしょう。
名工が先代から受け継いできた技、そしてその技術を注ぎ込んで作られた包丁は、きっとあなたの生活を長く、豊かにしてくれるはずです。
『大久保鍛冶屋』体験の紹介はコチラ
https://activityjapan.com/publish/plan/36453
東部圏域の魅力的な、「食」&「技」感動体験が詰まったパンフレットのダウンロードはコチラ
https://www.east-tokushima.jp/brochure/