特集
鳴門の朝はこれではじまる。
「たむらうどん」の至福の一杯
さっと食べられて、毎日でも食べ飽きない大衆食といえば、うどん。
徳島にはうどんを筆頭にラーメン、そば、そうめんまで地域で育まれてきた多彩な麺文化があります。
『たむらうどん』は、うどん店が立ち並ぶ鳴門市でも幅広い世代のファンが集う人気店のひとつ。
おいしいだけじゃない、訪れる人の心を惹きつけてやまない名店の魅力を探ってみました。
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午前6時。東の空はまだ薄暗く、町はまだ静か。
そんな時間に『たむらうどん』はひっそりとのれんを掲げます。
開店直前には店主の桐井さんはうどんを茹ではじめ、奥さんはサイドメニューのおにぎりをつくります。
朝早く開けるために深夜0時半には店に入り、下ごしらえを始めるんだそうです。
うどんを打ち続けて20年以上。
今でも水加減が難しいと桐井さんは話します。
開店早々、待ちわびたように人々が扉を開けて入ってきます。
たいていが一人客で、「かけ大」「かま玉小」とメニューも見ずに注文をして席に着きます。大きなテーブルをお客さんが家族のように取り囲み、手に丼を持ってもくもくとうどんをすすります。
一番注文が多いのは[釜玉うどん](小260円)。
半分食べたら、卓上にあるかけだしを入れて“かき玉”のようにして食すのがおすすめ。
なんだか心まで元気にしてくれそうな、優しいおいしさです。
うどん県・香川には早朝からオープンする店がいくつかありますが、徳島ではあまり見かけません。
「ほかと同じ時間に営業してもあかんと思ったんよ」とは、店主の桐井さん。ほぼ独学で麺を打ち始めたこともあり、創業当初は麺づくりに自信を持てずにいたんだそうです。
そこで、他店と違うことをやろうと思いついたのが早朝からのオープン。
今でこそ『たむらうどん』と言えば「早朝からやってる店」と根付いていますが、開店後数年は早朝から訪れる人も少なく閑散とした状態が続きました。
そのうちじわじわとお客が増え始め、「今はもう、朝は常連さんがほとんどよ」と話します。
それぞれがお好みのうどんを食べ、さっと帰っていく。一日のはじまりに『たむらうどん』のうどんを朝のルーティンの中に入れている人は少なくないのです。
夜勤明けであろう仕事着の男性、スポーツウェアを身に付けた若者、近所から散歩がてらやってくるお年寄り。
『たむらうどん』の朝はさまざまな顔ぶれがそろいます。
そのうちの一人は淡路島から車を飛ばしてきたという男性。
ペンションの経営者というその人は、会社員をしていたころ同僚に教えてもらった『たむらうどん』が忘れられず、大鳴門橋を渡ってわざわざ来るそうです。
「朝うどんってうまいよなぁ」と満足げに帰って行きました。
「20年以上続けてこれたってことは、うどんがまずくはないちゅうことかなぁ」と冗談交じりに話す桐井さん。
朝9時が過ぎるとピークを過ぎ、11時から始まる昼食の来店に向けて、ほっと一息をつきます。
小でもボリュームがあるのに、お手頃価格。
若い人や男性は「3玉!」と、大盛りのうどんを嬉しそうに頬張ります。
人気店になった今でも「よりおいしいうどんを」を追求し続ける桐井さんの麺で、朝からパワーチャージをする人の気持ちがすごく理解できます。
朝早く起きたなら、鳴門へ足を運んでみたい。
そう思わせてくれるお店がある鳴門市民が羨ましく思えます。
たむらうどん
徳島県鳴門市撫養町小桑島字前浜215
tel. 088-686-4026
営/6:00~14:00
休/火曜
席/20席
P/7台