特集
まだ知られざる麺がある
とくしま麺ロードの旅
6年前、徳島に移住して驚いたことがあります。それは徳島県民の麺に対する情熱。
徳島ラーメンはもちろんですが、県民のうどんに対する情熱も相当なものです。
県内各地に美味しいうどん屋があります。そして県民には、それぞれお気に入りのうどん屋があります。今回、始めはうどん屋だけで特集を組もうかと思ったのですが、徳島にはまだまだ知られざる麺がある!そんな名物麺もぜひ味わってもらいたい!
とくしま麺ロードの旅へご案内します。
文・仁木啓介(Bar IRORI マスター)
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変幻自在 そうめんの常識を覆す革命児
『酒菜きっちん 雄食(ゆうしょく)』の半田そうめん
みなさん、半田そうめんはご存知ですか?
吉野川の流域、つるぎ町半田地域で昔から作られてきたそうめんです。その特徴は『太い』こと。もちもちツルツルの食感、そうめんにあるまじき強いコシ。初めて食べた時は「これがそうめん?」とびっくりしました。
実はこの半田そうめん、最近東京で静かなブームになっているそうなんです。それが東中野にある「阿波や壱兆」。東中野にある24時間営業の半田そうめん専門店です。その人気ぶりがテレビや雑誌で伝えられています。(気になる方は「阿波や壱兆」でググってみてください)
そして半田そうめんは、昨年の「乾麺グランプリin Tokyo 2018」で見事グランプリを獲得したのです。
こんなに話題の半田そうめん、徳島に行ったらぜひ味わってみたいですよね。
最初に向かったのは、徳島駅からほど近い居酒屋『酒菜きっちん 雄食(ゆうしょく)』です。
東京で話題の半田そうめんですが、意外や徳島で食べられる店はほとんどありません。それは半田そうめんが徳島県民にとってあまりにも身近で、普段から家庭で食べているからなのかもしれません。雄食は半田そうめんだけでなく、鳴門の鯛や地鶏の阿波尾鶏、名物フィッシュカツなど、徳島の名産が一度に味わえる居酒屋です。
店主の北橋雄太さんは29歳。子供の頃から食べることが大好きで、就職を考える時、迷わず飲食業界を選んだそうです。和食屋で修行して、3年前に自分の店をオープンさせました。お店のコンセプトは徳島の美味しい食材を味わってもらうこと。子供の頃から家庭で食べていた半田そうめんも迷わずメニューに取り入れました。
さっそく北橋さんに半田そうめんを作ってもらうことに。
半田そうめんは作っている会社によって太さや食感も様々。北橋さんはいろいろと食べ比べてみて竹田製粉製麺工場の麺に決めたと言います。たっぷりのお湯で5分間茹でたら、冷水で洗ってしっかりヌメリを取ります。これがもちもちツルツルの食感を生み出す秘訣。
麺に乗っているのはネギと刻み海苔だけ。すだちを絞って、だし醤油をかけていただきます。半田そうめん独特の太さとコシが楽しめるさっぱりとした一品。お酒を飲んだ締めにはぴったりです。
そして半田そうめんを使った意外なメニューがこちら。
太くてコシの強い半田そうめん。そうめん本来の食べ方だけでなく、ラーメンやパスタのように使っても美味しいんです。雄食のペペロンチーノはモチモチの食感。知らずに食べたらそうめんだとは気づかないと思います。その秘訣は茹でた麺をあえて洗わずに熱々のまま使うこと。
和風はもちろん、イタリアン、中華、エスニック、様々な料理に使えるのが半田そうめんの魅力です。この魅力を知ったらやみつきになること間違いなし。旅のお土産にはぜひ半田そうめんを買って、家に帰ったらご家族やお友達に作ってあげてください。
うどんのイメージを根底からくつがえす
『舩本うどん』の鳴ちゅる
徳島県民がうどんを愛してやまないのは冒頭に書きましたが、中でも鳴門市近辺だけで食べられて来たのが鳴門うどん。通称“鳴ちゅる(なるちゅる)”です。徳島に来て初めてこの鳴ちゅるを食べた時、僕の頭の中でうどんのイメージが音をたてて崩れていきました。
「なんだこれ?うどんなのにコシがない。プチプチちぎれるぞ!」
その日は納得がいかないまま帰ったのですが、しばらくすると無性に食べたくなってきました。そうして、気づいた時には鳴ちゅるにハマっていました。
今回取材に伺ったのは、鳴門市大毛島の高島にある『舩本うどん』。
鳴門市には鳴ちゅるを出しているお店が何件もありますが、麺も出汁も店それぞれ違います。舩本うどんは一番遠くてわかりにくい場所にあるのですが、僕が一番よく食べに行くお店です。とにかく、あの独特の麺の虜になってしまったようです。取材の日は麺作りの秘密を知りたくて、開店前に伺いました。
出迎えてくれたのは四代目店主の安喜正満さん。実は安喜さん、不思議な縁で舩本の四代目になったそうです。
安喜さん「父親がこの店が好きで、子供の頃からよく連れられて来ていたんです。だから、僕にとってうどんと言えば鳴門うどん。讃岐うどんなんて食べたことがなかったですね」
安喜さんは舩本の後継でも、従業員でもありません。子供の頃から食べて来た大好きなうどん。大人になって働くようになっても、舩本のファンとしてお店に通い続けていました。するとある時期から、お店の臨時休業が増え始めます。聞いてみると先代のお母さんは体調を崩し、お店を閉めようと思っているとのことでした。
安喜さん「僕としてはお店をやめられたら困るので、じゃあ会社を辞めて僕がやりますって言ったんです」
それが今から14年前。安喜さんは先代から麺の作り方、出汁の取り方、商売の仕方を教わりお店を引き継ぐことになったのです。
開店前の仕込みで忙しい時間、さっそく麺作りを見せてもらうことに。
前日から寝かせていた生地は柔らかくて指で押さえると簡単に跡がつきます。讃岐うどんのように足で踏んだりはしないそうです。
安喜さん「鳴門のうどんは昔から家庭で女性が作っていました。だから女性でも作りやすいように柔らかい生地になったそうです。普通のうどんに比べて塩分は少なく、水の割合が多い。だから柔らかくてちゅるちゅるとした食感になるんです」
生地を薄く延ばしたら包丁で切ります。もちろん綺麗に切りそろえることもできるそうなのですが、あえてそうしません。長さも太さも不揃いなのが、鳴門の家庭の味だからです。
出汁の基本は昆布と鯖節がメイン。余計なものは一切入れず、時間をかけて丁寧に取った出汁は、優しい甘みが特徴です。毎朝、大量の出汁を作るのですが、大きな寸胴で一度に作らず、小さな鍋で取った出汁を何度も寸胴に移し変えていきます。
安喜さん「これも先代から教わったやり方なんですが、大きな寸胴で一度に出汁を取ると味が全然違うんですよ。だから時間はかかりますけど、教わった通りにやってます」
こうして出来上がるのが舩本の「鳴門うどん」です。
コシのない柔らかな麺は口の中でとけていきます。雑味のない優しくてほんのり甘いつゆは、丁寧に取った出汁に醤油だけを加えたもの。最後まで飲み干さずにはいられません。
初めて食べた時は、正直言って「こんなのうどんじゃない!」と思ったのですが、一度食べたらやみつきになる魅力があります。ただし、初めての人は「うどん」ではなく、「鳴ちゅる」を食べに行くと思った方がいいかもしれません。鳴ちゅるはそれぐらい個性的で不思議な麺なんです。
舩本うどんの支店は四国霊場1番札所霊山寺の近くに大麻店が、JR徳島駅の近くにはアミコ店があります。本店まで行く時間がない人も、ぜひ一度味わってみてください。
本場をしのぐ究極のうどんを目指す
『丸池製麺所』の讃岐うどん
徳島県は讃岐うどんの本場香川県の隣、そして橋で繋がる関西圏とは昔から深い交流がありました。そのため、うどん屋には讃岐系と関西系があります。
近年、話題になるのはやはり讃岐うどん。徳島で食べられる讃岐うどんの名店をご紹介しましょう。
向かったのはJR板野駅から歩いて12分の丸池製麺所。四国霊場3番札所の金泉寺からも徒歩18分ほどで行ける場所です。
お昼時は行列ができていることが多いので、外にあるメニューを見ながら注文を考えます。「ひやあつ」は冷たい麺に熱いダシをかけたもの。「あつひや」は熱い麺に冷たいダシをかけたもの。「きつねうどん、ひやあつ大で」みたいに注文できれば合格です。
お店に入って最初に目に入るのが、店主の山本将弘さんの姿。忙しい時間帯はひっきりなしに麺を打っています。そう、丸池製麺所の麺はいつも打ち立てなんです。
山本さん「麺は生き物なんで、置いておくとすぐに食感が変わってくるんです。伸ばしだち(伸ばしたばかり)、切りだち、湯がきだち、最高の状態じゃないと麺がうまいこと膨らまんのですよ」
いきなりとんでもないこだわりを聞かせてくれました。
「麺をシンプルに楽しんでもらうなら、かけうどんのひやあつがオススメやね」
ということで、まずは「かけうどん ひやあつ小」をお願いしました。
うどんを口に入れると最初に感じるのは表面の柔らかさ。モチモチとした食感を味わいながら麺をすすると、勝手に喉の奥に吸い込まれていきます。とにかく「柔らかさ」「なめらかな伸び」「しなやかなコシ」というバランスが絶妙なんです。ああ、美味い!
山本さん「最近は表面から硬くて歯ごたえがあるのが讃岐うどんのコシだと思っている人もいるけど、昔ながらの讃岐うどんはなめらかで、柔らかさの中にコシがあるんですよ」
続いて頼んだのは釜玉うどん。お店の人気メニューです。
山本さんはどんぶりの中にたまごを溶いて、熱々のうどんが茹で上がるのを待ちます。茹で上がってお湯を切ったら熱々のままどんぶりへ。そして、そのまま少し待ちます。たまごが半熟になったタイミングを見計らって麺をかき混ぜ、フワフワトロトロの半熟たまごに絡めて出来上がり。
だし醤油をかけて食べると麺と玉子の優しい味が口いっぱいに広がります。改めて感じるのが麺の美味しさ。釜玉うどんは麺を冷水で締めないのでモチモチした食感がいっそう引き立ちます。なのに麺の中心にしっかりとしたコシを感じることができるのです。
山本さんは徳島生まれですが、ご両親は香川県出身。子供の頃からおばあちゃんが打ってくれるうどんが大好きだったそうです。若い頃はサーファーで、いろんな仕事を転々としていたそうですが、二十代半ばでうどん屋になろうと思い立ち、香川県のうどん屋を食べて回るようになりました。その時出会ったのが、名店として知られていた「るみばあちゃんの池上製麺所」でした。
山本さん「最初食べた時はびっくりしましたね。なんじゃ、この美味いうどん!他では味わったことのないような素朴な味で。これは絶対に弟子にしてもらおうと思って」
その場でるみばあちゃんに直談判し、無事弟子入りを許されました。すぐに香川県に引っ越した山本さんは、るみばあちゃんから直々にうどん作りを教わるようになりました。るみばあちゃんはお店に立っている時はにこやかで楽しい人ですが、仕込みの時は別人のような表情でうどんに向かい合っていたそうです。
山本さん「おばあちゃんが言ってたんですけど、気温や温度は毎日変わる。その日の天候を感じながら美味しいうどんを考えるんやって。粉の混ぜ方、こね方、ふみ方、そんな作業の一つ一つがその日の天候にぴったり合ってないとあかん。でも、それが全部ぴったり合って、ほんまに美味しいうどんができるのは一年に一回くらいやって」
小麦と塩と水、たった3つの材料からできるうどん。だからこそ奥が深い。
もっともっとうどんを極めたいという山本さん。山本さんが日々目指しているのは、るみばあちゃんから教わった究極のうどんです。
徳島の名物麺を目指して
『亀井製麺所』のもち麦うどん
近年、テレビで紹介されるたびに売り切れ続出の人気食材がもち麦です。低カロリーで食物繊維がたっぷり。様々な病気の予防やダイエット効果、美肌にもいいと聞いて、食べてみたことがある人は多いのではないでしょうか?僕も地元のおばあちゃんにもらったもち麦をお米と一緒に炊いて食べるのですが、プチプチとした食感が楽しくて大好きです。
さて、最後に紹介するのはそんなもち麦を使ったうどんを作っている亀井製麺所です。
車でないと行きにくい場所なんですが、四国霊場5番札所の地蔵寺から6番札所の安楽寺に向かう遍路道を少し入った所にあります。
こちらのお店でもち麦うどんを食べられるのは週末土日だけ。平日は麺の製造と販売をおこなっています。お店が始まる前に代表の亀井亮典さんからお話を伺いました。
元々、製麺所を始めたのは亮典さんのひいおじいさん。事業は成功して学校や飲食店に出荷するほどの大手の製麺所だったそうです。ある時、徳島県から地元のもち麦を使った商品を作ってくれないかと頼まれて、開発したのがもち麦うどんでした。その後、おじいさんとおばあさんが事業を引き継ぎ、地元の日曜市でもち麦うどんを出すと大人気に。両親が共働きだった亮典さん。子供時代は学校が終わると製麺所に来て遊んでいたと言います。
そんな亮典さんが亀井製麺所を継ぐことになったのは3年前。県外の大学に進学した亮典さんですが、おじいさんが急に体調を崩し、その世話をするために徳島に帰ってきます。一年間、おじいさんの介護をする中で、家業の製麺所を終わらせたくないという想いが次第に大きくなっていきました。
亮典さん「なんにも分からないところからのスタートでしたね。まあ、なんとかなるだろって気持ちで」
おじいさん、おばあさんから麺づくりを学び、事業を引き継いだ後が大変でした。製麺所の改装や保健所の手続きなど、やらなければならないことが次々に出てきます。
亮典さん「困り果てて茨城で働いていた姉に泣きついたんです。助けてくれって」
亮典さんの度重なる説得で徳島に戻って来た姉の優璃さん。最初は少し手伝ってあげようくらいの軽い気持ちだったそうです。
優璃さん「徳島に戻って、最初は別のところに働きにも行ってたんです。でもやり始めたら製麺所の方が面白くなってきて、今はこれ一本に決めました」
午前11時、いよいよ開店の時間です。さっそくもち麦うどんをいただいてみることにしました。
見た目は蕎麦のようにも見えますが、食感はモチモチねばりがあって、蕎麦ともうどんとも違う独特のもの。紫大根にはゆずの絞り汁を少し入れてあり、優しい辛味と爽やかな香りで食欲をそそります。けっこうボリュームもあるのでお腹もいっぱいになりました。
僕が食べ終わる頃には、続々と車がやってきてお店はあっという間に満席になりました。地元はもちろん、わざわざ香川から通ってくれる常連さんもいるんだとか。
そこに登場したのが、二人のおばあさんの美代子さん。お店を営業するときはいつも手伝ってくれるそうです。
これだけお客様が来てくれるのは、元々の商品力があったからだという亮典さん。
亮典さん「うちは脱穀から精麦まで、もち麦に負荷をかけないようにしてやっているので、香りがいいのが特徴です。30%ももち麦を練りこんでいるんですが、これだけ入れとるとこはないと思いますね。塩分を控えて余計な添加物も入っていないので、日持ちはしないんですがみんな美味しいって喜んでくれます」
今年から新たにキッチンカーを購入。県内各地のイベントにも出店するようになりました。
亮典さん「たくさんの人にうちのもち麦うどんを知ってもらいたいですね。いつかはもち麦うどんと言えば亀井製麺所って思ってもらえるようになりたいです」
徳島の麺ロードの旅、いかがでしたか?
徳島県民の麺にかける情熱、ぜひ一度味わいに来てください。
Information
半田そうめん
『酒菜きっちん 雄食』
徳島県徳島市一番町3−5
088-622-3345
定休日 :不定休
営業時間:17:00〜
【食べログ】https://tabelog.com/tokushima/A3601/A360101/36005751/
鳴門うどん
『舩本うどん 本店』
徳島県鳴門市鳴門町高島字中島25−2
088-687-2099
定休日 :元旦
営業時間:10:30〜14:00
【HP】http://funamoto-udon.com/index.html
讃岐うどん
『丸池製麺所』
徳島県板野郡板野町大寺字大向北98−8
088-672-6325
定休日 :水曜日
営業時間:平日11:00〜14:00
土日祝10:00〜14:30
麺がなくなり次第終了
【HP】https://www.udon-maruike.com/
もち麦うどん
『亀井製麺所』
徳島県板野郡上板町神宅字小柿7−3
088-635-8455
○飲食営業は土日祝のみ
営業時間:11:00〜17:00
※イベント出店のため臨時休業することがあるのでFacebookで確認を
○麺の販売
水曜〜日曜
営業時間:9:00〜18:00
【HP】https://kameiseimenjo.com/
【Facebook】https://www.facebook.com/kamei.noodle/
Text 仁木啓介
兵庫県出身。1967年生まれ。東京でテレビ番組のディレクターとしてドキュメンタリーやドラマを制作。MBS『世界ウルルン滞在記』では世界各地の秘境を巡る。取材で訪れた徳島県上勝町に一目惚れして2012年に移住。映像制作とバー、グランピングの経営をする(株)上勝開拓団を起業。マスターを務めるBar IRORIの人気メニュー“汁なし担々麺”には半田そうめんを使っている。